はじめに、令和8年熊本地震で被害に遭われたすべての方にお見舞いを申し上げます。本記事は2026年8月5日時点で公表されている情報をもとにしています。支援活動は現在も続いており、状況は日々変わります。
こんにちは。医学部進級・医師国家試験対策の個別指導塾 MediE(メディエ) です。
2026年7月28日16時27分、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、宇城市と氷川町で最大震度7を観測しました。気象庁は同日19時15分、この一連の地震活動を「令和8年熊本地震」と命名しています。
あれから1週間が経ちました。テレビの報道は少しずつ減っています。しかし現地では、DMATの活動隊数はむしろ増えています。8月5日13時時点で、熊本県内ではDMAT78隊、コーディネーションチーム89隊が活動中です。発災翌日の29日は30隊でした。
「災害急性期の48時間で活躍するチーム」と習ったはずのDMATが、なぜ1週間後により多く現地にいるのか。この問いに答えられると、災害医療という分野の設計思想が一気に見えてきます。今回は、いま熊本で起きていることを手がかりに、医学生が押さえておくべき災害医療の全体像を整理します。
DMATとは何か
DMAT(Disaster Medical Assistance Team/災害派遣医療チーム)は、厚生労働省が認めた公的な医療チームです。災害発生直後の急性期、おおむね48時間以内から活動を開始できる機動性を持ち、専門的な研修・訓練を受けたチームと定義されています。
基本構成は、医師1名・看護師2名・業務調整員1名の計4名です。ここで見落とされがちなのが「業務調整員」です。事務職員や薬剤師、放射線技師などが担い、通信、移動手段の確保、記録、関係機関との連絡といったロジスティクスを引き受けます。災害医療は医師だけでは1時間も回らない、という現実がこの構成に表れています。
生まれた理由は「防ぎえた災害死」
DMATが構想されるきっかけは、1995年の阪神・淡路大震災でした。短時間に多数の傷病者が発生する一方、病院自体が被災し、ライフラインが途絶え、医療従事者の確保も困難となり、初期医療体制が十分に機能しませんでした。適切な医療が届いていれば救えたはずの命が失われた——いわゆる「防ぎえた災害死(preventable disaster death)」が、大きな課題として浮き彫りになったのです。
この反省を踏まえ、2004年8月に東京DMATが全国に先駆けて設置され、2005年4月に厚生労働省が日本DMATを設立しました。
活動範囲は「救命」から「地域の医療機能を支えること」へ
発足当初、DMATの主眼は被災現場での救命医療でした。しかし現在は、入院患者、福祉施設の入所者、在宅で暮らす住民に対して、保健・医療・福祉サービスが途切れないよう体制そのものを支えることに軸足が移っています。
都道府県庁や災害拠点病院に本部を設置して医療機関の被害状況を把握・共有し、被災した医療機関や施設を訪問してニーズを聴取・分析し、物資支援・搬送支援・診療支援を行う。狙いは、需要と供給のアンバランスが急拡大することで起きる医療ひっ迫・医療崩壊を防ぐことです。
なお2022年2月には、新型コロナウイルス感染症への対応実績を受けて、DMATの活動対象に「新興感染症まん延時」が追加されています。
発災1週間、熊本で何が起きているか
ライフラインは戻りつつあるが、断水が残る
厚生労働省が8月5日に発表した情報によると、熊本県内ではこれまでに92の医療施設が被災し、8月5日13時時点で46施設が被災状態にあります。内訳の推移が重要です。停電は最大22施設から現在0施設へ、医療ガスは最大13施設から現在1施設へと回復しました。一方で断水は最大88施設のうち、現在も42施設で継続しています。
電気は復旧が比較的早く、水は遅い。これは災害医療の定石です。断水が続く限り、手術も、透析も、内視鏡の洗浄も、通常どおりには回りません。「停電が解消したから病院は復旧した」とはならないのです。地域別では八代市26施設、宇城市14施設、熊本市15施設の順に被災が多く、うち八代市は現在も22施設が被災状態にあります。
DMATの派遣要請は、同心円状に広がった
熊本県によるDMAT派遣要請の推移を追うと、災害支援の拡大の仕方がよくわかります。7月28日に九州各県、7月29日に九州・中国・四国各県、7月31日に中国・四国・近畿各県、8月3日には近畿各県と中部の富山・石川・福井・岐阜・愛知・三重にまで要請範囲が拡大しました。
DMAT調整本部の設置も、7月28日の熊本・佐賀・長崎・宮崎・鹿児島・福岡・沖縄・京都・兵庫・島根・香川・群馬から始まり、8月4日の栃木県まで、全国に広がっています。あわせて全国のDMATが自動待機の状態に入りました。
被災地が広く、支援が長期化するほど、近隣県だけでは人員が持ちません。災害医療は「駆けつける」だけでなく「交代し続ける」ことで成立する——この構造が、要請範囲の拡大に表れています。
いま現地にいるのはDMATだけではない
8月5日時点で熊本県内に入っている支援チームを並べると、災害医療の層の厚さが見えます。
精神科医療を担うDPAT(災害派遣精神医療チーム)は日本DPAT24隊(本部活動12隊、現地活動12隊)が活動中。日本医師会が派遣するJMATは25チーム82人。日本赤十字社の医療救護班19班と日赤災害医療コーディネートチーム9チーム。国立病院機構の医療班4チーム。
行政の健康危機管理を支援するDHEATは9チーム(うち6チームが活動中)が熊本県庁・八代保健所・宇城保健所に入り、保健師等チームは28チームが全国から派遣されています。福祉分野のDWAT(災害派遣福祉チーム)は8チーム。歯科のJDAT(日本災害歯科支援チーム)も避難所等でニーズ調査を開始しました。栄養面ではJDA-DAT(日本栄養士会災害支援チーム)2チームが八代・宇城地区に入り、特殊栄養食品ステーションが設置されています。
災害支援ナースも、7月30日から医療機関へ、8月3日からは避難所へと展開し、県内外の32名が10避難所で活動しています。
教科書で略語として並んでいたこれらのチームが、実際には時間の経過とともに順番に立ち上がり、役割を引き継いでいく。この一覧そのものが、災害医療のフェーズ論の実物です。
いま現場の主題は「慢性疾患をどう守るか」に移っている
透析:断水が命に直結する
熊本県内には94か所の透析施設があります。日本透析医会の災害時情報ネットワークを通じて、最大13か所が透析実施困難と報告されました。その後、8月3日時点で給水支援により4か所、ライフラインの復旧により6か所が実施可能となり、残る3か所も他医療機関での透析実施を手配済みと確認されています。
透析患者にとって、治療が数日途切れることは生命に直結します。ここで効いているのが「給水支援」という、一見すると医療らしくない介入です。災害時に透析患者を救うのは、しばしば水を運ぶトラックである。この感覚は、国試の知識としてよりも、将来の臨床判断として持っておく価値があります。
在宅人工呼吸器・在宅酸素の患者
厚生労働省は発災当日から、在宅酸素供給装置の保守点検事業者8社や日本産業・医療ガス協会に対し、7月30日には日本医療機器工業会を通じて製造販売メーカーに対し、患者の安否確認に関する情報提供を依頼しました。8月5日時点で特筆すべき被害報告はありません。
誰が患者の居場所を知っているのか——災害時、その答えは行政ではなく、しばしば機器のメーカーや供給事業者です。平時のサプライチェーンが災害時の安否確認網になる、という発想は覚えておいて損がありません。
薬局とモバイルファーマシー
熊本県内では134の薬局で被害が報告され、8月4日時点で24施設が営業不可となっています。これに対し、熊本県・福岡県・宮崎県の薬剤師会がモバイルファーマシー(災害対策医薬品供給車両)を稼働させ、災害薬事コーディネーター4名が県庁・八代保健所・宇城保健所・県薬剤師会で薬事ニーズの調整にあたっています。
避難所で、これから起きること
真夏の避難生活です。厚生労働省は発災当日の7月28日の時点で、各都道府県に対し、避難所生活を送る被災者に熱中症やエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)への十分な対策を行うよう依頼しています。
感染症対策では、咳エチケット・手指衛生・換気の徹底に関する事務連絡とリーフレットが発出され、DICT(災害時感染制御チーム)が8月4日に先遣隊、5日に本隊が到着し、八代・宇城の保健所管内で重点支援避難所の同定と巡回を実施する予定です。FETP(実地疫学専門家)も8月4日から現地で感染症疫学情報の分析にあたっており、8月4日20時時点で感染症が拡大する兆候は確認されていません。
さらに、避難所での食中毒対策、アレルギー疾患を有する被災者への配慮(食品表示基準は弾力運用としつつ、アレルギー表示と消費期限はこれまでどおり取締りの対象)、そして8月4日には被災者および支援者の心のケアに関する事務連絡が発出されました。
「支援者の」心のケアが明記されている点に注目してください。災害医療では、支援する側が消耗して倒れることが、支援体制そのものの崩壊につながります。
復旧作業という、次のリスク
災害医療の視野は、避難所の外にも及びます。厚生労働省は7月31日、がれき処理や建築物の解体・改修工事における石綿(アスベスト)ばく露防止対策の徹底を、環境省と連名で業界団体および関係行政機関に要請しました。あわせて呼吸用保護具(防塵マスク)2,500枚を熊本労働局・労働基準監督署に配布しています。
地震そのものが終わっても、復旧作業に伴う健康リスクは数十年単位で残ります。中皮腫や石綿肺の潜伏期間を考えれば、いま配られている防塵マスクは、2050年代の疾病予防でもあるわけです。産業保健と災害医療が交差するこの視点は、公衆衛生の学習において非常に応用の利く発想です。
2016年の熊本地震から、災害医療は何を学んだか
平成28年(2016年)熊本地震では、4月14日にM6.5の地震で益城町が震度7を観測し、その約28時間後の4月16日にM7.3の地震で西原村と益城町が再び震度7を観測しました。2日間で同一観測点が震度7を2度観測したのは、気象庁の観測史上初めてのことです。
この2016年の対応は、災害医療の転換点になりました。東日本大震災では、急性期を担うDMATから、亜急性期を担う医療救護班への引き継ぎがうまくいかず、時間的・空間的な「医療の空白」が生じ、その谷間で防ぎえた災害死が生じたと指摘されていたためです。
これを受けて2016年の熊本地震では、ロジスティクスチームの派遣と医療救護班の適時な派遣要請により、医療の指揮系統・救護班の数ともに谷間のない支援が行われたと総括されています。
そして今回、その延長線上にあるのがD24H(災害時保健医療福祉活動支援システム)です。厚生労働省は発災当日の7月28日、熊本・佐賀・福岡・長崎・大分・宮崎・鹿児島の各県に対し、D24Hを活用した迅速な災害対応を依頼しました。医療だけでなく「保健・医療・福祉」を一体で扱う名称に、この20年の到達点が表れています。
災害医療の進歩とは、劇的な救命技術の登場ではなく、「引き継ぎの断絶をなくす」「指揮系統を一本化する」「情報を共有する」といった地味な設計の積み重ねである——医学生が知っておくべきなのは、この事実だと思います。
国試で問われる災害医療の要点
CSCATTTの順序を理解する
災害医療対応の原則は、C(Command and Control:指揮と連携)、S(Safety:安全)、C(Communication:情報伝達)、A(Assessment:評価)、T(Triage:トリアージ)、T(Treatment:治療)、T(Transport:搬送)の7要素で整理されます。
重要なのは順序です。医療行為である後半のTTTより、前半のCSCAが先に来る。今回の熊本でコーディネーションチームが89隊とDMAT本体の隊数を上回っているのは、まさにこのCSCAに人員が投入されているからです。この対応関係が腑に落ちると、災害医療の設問は一気に解きやすくなります。
チームの略語を混同しない
DMATは急性期の医療、DPATは精神医療、JMATは日本医師会が派遣する医療チームで主に亜急性期以降の避難所・救護所を担い、DHEATは被災自治体の保健所などの健康危機管理を行政マネジメント面から支援し、DWATは福祉分野を担当します。加えてJDATは歯科、JDA-DATは栄養、DICTは感染制御を担います。それぞれ「いつ」「誰を」「何のために」支えるのかが異なり、この違いがそのまま出題ポイントになります。
EMISとD24H
被災状況の把握に使われるのがEMIS(広域災害救急医療情報システム)です。今回、地震発生の1分後にあたる7月28日16時28分に熊本県が災害モードへ切り替え、同日中に40を超える都道府県が警戒モードに移行しました。被災していない県も一斉に警戒態勢に入るという点が、この仕組みの要です。これに加えて、保健・医療・福祉を横断するD24Hの活用が進んでいます。
災害拠点病院の要件
災害拠点病院の指定要件では、最低1チームのDMAT保有が義務づけられています。「災害拠点病院=ただ大きい病院」ではなく、DMATを持ち、自家発電・受水槽を備え、被災時にも診療を継続できることが求められる、という理解が必要です。今回、熊本労災病院にもDMAT活動拠点本部が設置され、DMATの受け入れが行われました。
医学生の自分に、いま何ができるのか
ニュースを見て「自分も何かしたい」と感じた人は多いはずです。ただ、資格も所属も装備もない状態で被災地に向かうことは、支援ではなく負担になります。水も食料も宿泊場所も、被災地では有限です。DMATが訓練と登録の制度に支えられているのは、まさにこのためです。
一方で、発災1週間が過ぎ、支援の形は変わりつつあります。8月5日時点で、熊本県と県内11市町(熊本市・八代市・宇土市・宇城市・御船町・嘉島町・益城町・甲佐町・美里町・氷川町・芦北町)に災害ボランティアセンターが開設されています。ただし、ニーズ調査中で募集を開始していない場合や、募集範囲を市町村内・同一県内の在住者に限っている場合があります。行きたいと思ったら、まず各センターの募集条件を確認するのが鉄則です。
そして、多くの医学生にとって最も現実的で、最も長く効く貢献は、この災害を通じて災害医療の仕組みを本気で理解しておくことです。数年後、あなたが研修医として、あるいはDMAT隊員として現場に立つ可能性は決して低くありません。
なお、DMAT隊員になるには医師免許取得後、DMAT指定医療機関に所属したうえで隊員養成研修を受講する必要があります。研修は都道府県を通じた枠で運用されており、学生のうちに取得できる資格ではありません。まずは初期研修先の選択肢に災害拠点病院を含めて検討する、というのが現実的な第一歩になります。
よくある質問
Q. DMATとは何ですか?
災害派遣医療チーム(Disaster Medical Assistance Team)の略で、厚生労働省が認めた公的な医療チームです。災害発生直後の急性期、おおむね48時間以内から活動できる機動性を持ち、専門的な研修・訓練を受けています。
Q. DMATは何人で構成されますか?
1班あたり医師1名・看護師2名・業務調整員1名の計4名が基本構成です。業務調整員は通信・移動・記録・関係機関との連絡などを担当します。
Q. DMATはいつ、なぜ作られたのですか?
1995年の阪神・淡路大震災で「防ぎえた災害死」が問題となったことがきっかけです。2004年8月に東京DMATが設置され、2005年4月に厚生労働省が日本DMATを設立しました。
Q. 令和8年熊本地震で、現在DMATはどのくらい活動していますか?
厚生労働省の発表によると、2026年8月5日13時時点で熊本県内でDMAT78隊、コーディネーションチーム89隊が活動中です(本部活動89隊、現場活動78隊)。DPATは日本DPAT24隊が活動しています。数値は日々変動します。
Q. なぜ発災から1週間経ってもDMATが活動しているのですか?
DMATの活動対象が、現場での救命だけでなく、被災した医療機関や福祉施設の機能維持、患者搬送の調整、地域全体の保健医療提供体制の支援に及ぶためです。断水などライフラインの被害が続く限り、医療機関を支える活動は必要になります。長期化に備えて交代要員を確保するため、派遣要請の範囲も九州から中国・四国・近畿・中部へと拡大しました。
Q. DMATとDPAT、JMAT、DHEAT、DWATの違いは何ですか?
DMATは災害急性期の医療、DPATは精神医療、JMATは日本医師会が派遣し主に亜急性期以降の避難所・救護所での医療を担います。DHEATは被災自治体の保健所など行政の健康危機管理をマネジメント面から支援し、DWATは福祉分野を担当します。
Q. 災害時、透析患者はどうやって守られるのですか?
日本透析医会が運営する災害時情報ネットワークを通じて各施設の実施可否が共有され、実施困難な施設の患者は他の医療機関へ振り分けられます。今回は最大13か所が実施困難となりましたが、給水支援とライフライン復旧により多くが再開し、残る施設も他院での実施が手配されました。
Q. 医学生でもDMATに参加できますか?
できません。DMAT隊員になるには医師免許を取得し、DMAT指定医療機関に所属したうえで隊員養成研修を修了する必要があります。学生が個人で被災地へ向かうことも、支援にはなりません。
Q. 医学生が被災地でボランティアをすることはできますか?
災害ボランティアセンターを通じた一般ボランティアという形はあります。ただし2026年8月5日時点では、ニーズ調査中で募集を開始していないセンターや、募集範囲を市町村内・県内在住者に限定しているセンターがあります。必ず各センターの最新の募集条件を確認してください。医療行為を行うことはできません。
Q. EMISとは何ですか?
広域災害救急医療情報システムのことで、国・自治体・医療機関が災害時の被災状況や受け入れ可能状況を共有する仕組みです。今回は地震発生の約1分後に熊本県が災害モードへ切り替え、同日中に多数の都道府県が警戒モードに移行しました。
おわりに
災害医療は、教科書の中では略語と数字の羅列に見えるかもしれません。しかし実際には、断水した病院で透析をどう継続するか、真夏の避難所で誰が最初に体調を崩すか、がれきを片づける人の肺をどう守るか、という具体的な問いの積み重ねです。
そして、報道が減っていく時期こそ、支援が最も長く必要とされる時期でもあります。いま熊本で起きていることを追いながら教科書を開き直すと、これまで暗記でしかなかった知識の輪郭が変わるはずです。
MediEは「教えない、導く。」をモットーに、医学部の進級対策・CBT・医師国家試験対策を専門とする個別指導塾です。公衆衛生や救急のように「暗記に見えて実は構造で理解する分野」でつまずいている方は、一度ご相談ください。
本記事は2026年8月5日時点で公表されている厚生労働省「令和8年熊本地震について(第38報)」および気象庁・自治体等の情報に基づいて作成しています。被害状況および支援体制は現在も変化しており、記載した数値は途中集計です。安全に関わる判断は、必ず国・県・市町村および関係機関の最新発表に従ってください。